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ヽ(´∀`*)ノウキャキャ


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好き、愛してる、みたいな胡散臭い言葉を全くの嘘っぱちでいうのが楽しかった。ただそれだけだ。本当は愛情とかないんだよ、と言ってしまったらあいつはバカだからものすごく傷つくんだろう。こんなくだらない毎日につき合わせてるのだからせめて言わないでおいてやろう、と偉そうに考えていた。脱退という言葉があたしには付きまとって、もっと言うなら駅弁だとかくだらないあだ名をつけてネットにしか暮らせないやつらがあたしを嘲笑っている。あたしからすると、だからなんなんだよ、って言ってやりたい。童貞がほざいてんじゃねえよ。ミキサマミキサミオシオキキボンヌ、ってあたしに何を求めてるわけ。何も知らないくせに。嘲笑ってやりたいのはあたしの方だ。そんなことは正直どうでもよかった。自分から脱退しておいてなんだけどここまで仕事がないと予想していなかった。やってしまったなんて今更、最近はため息をついてしまう。少しだけ投げやりになっていた。あいつはあいつでテレビという公共の場所であたしと結婚したいとまで言っていた。あたしはそんな気がないけれど、今のような状態ならプロポーズされたら応じてしまうだろう。決定的に何かが足りてない。
 
こんなに何か足りていないと思うようになったのはいつからだったんだろう。仕事の量は関係なく毎日満たされている時期が確かにあった。はっきり覚えている。あたしの隣にはいつもあやちゃんがいた。たん、たん、とじゃれてくることは最近少ないせいかより鮮明に思い出せる。ひとりでごろごろとベッドの上で転がってそんな日々を思い出すとものすごく寂しくなった。軽口を投げ合うのも楽しいけれど、ああやってじゃれあう方があたしには合っている。それが特に、特別に甘えられる人となら。静まった部屋の中ひとりでそうしていたら涙が出た。本当は気づいていたけど、それがあやちゃんの迷惑になるなら、負担になるなら求めたくないし、求めてから与えられるより前みたいに求めなくても与えられていたかった。そんなことは思っても言えない。そうしているうちに全て過ぎていってしまった。どうにもならないよ、と呟いてみたら音のない部屋で際立って寂しく響いた。
 
「あんたどうすんの。」「何が。」「庄司君結婚したいって言ってるんでしょ?」「直接言われてないもん。」たまにこっそり密やかな居酒屋に行ってちびちびと酒をかわしながら言葉を交わす。あやちゃんは寒いからと熱燗を飲んでいた。似あいすぎて笑ったら叱られた。結婚の話をふられてあたしは本音を言いたくなくて適当に返したけどあやちゃんに適当に返した場合徹底的に問い詰められるのが常だった。言ったあとに、あ、と思ってあやちゃんの顔を見たら、意外に何も言われなかった。それどころかふってきたくせに目の前のつまみに夢中だった。あやちゃんにとってはどうでもいい話題だったのだろうか。少し腹が立った。だからあやちゃんの目の前の残り一つのつまみをひょいと奪って自分の口に放った。味の好みがもっとおっさんくさくなった、とは言わない。あやちゃんはそんなあたしを見て呆れたようにため息をついた。「どうすんの。」「何がさ。」「結婚。」口の中のものを飲み込む前にあやちゃんはあたしを責める。「みきたんにとってはそんな適当なことなの?」適当なわけじゃないんだけどだなんて返したものなら集中砲火。あやちゃんは爆発するだろうけど本当はそう思っていた。その返答自体適当なように、あたしは結婚もこのさきのことも適当に考えていた。というか、先が見えなすぎて見たくなかった。何をがんばるべきなのか、どうすべきなのか、わかんないふりで一つわかっていた。別れてしまえばいい。矢口さんがそうだったように。別れたら仕事が戻るかもしれない。あたしはそんな理由で別れる気にならなかった。別れて仕事が戻ってきてこの寂しさは埋まるものか。それだったら今だらだらとあいつと付き合っている方がまだマシだ。「あやちゃんは美貴にどうしてほしいの。」真剣に考えているといえば満足だろうか。そうだからといってあたしは嘘をつけない性質なんだ。あやちゃんは盛大にため息をついた。「そういう問題じゃないでしょ、あたしがどうこう言ってどうするものじゃない。あたしはみきたんに質問してるだけなの。あんた結婚したいのしたくないの。」矢継ぎ早に言われるのは慣れているはずなのに今日は何だか心が痛む。「結婚、」口に出してみると意外に滑らかじゃないんだと知った。そのせいか、今日はなんだか嘘をつけない。かといって本当のことも言いたくない。できるならこの質問に答えたくない。「別にしてもいい。」絶対に言われたくない一言が自分にはある。そう気がついて再びあやちゃんの様子を窺った。あやちゃんは意外に怒らなかった。「そう。」「うん。」酒の味がわからなくなる。美味いのか不味いのか、甘いのか辛いのか、いいのか悪いのか。「でもさ、たん。」「ん。」今日はなんだか酔いが速いみたいだ。頭がふらふらする。「このままでいいの?そんなことしたら完全に引退だよ。」引退と脱退は響きが似てるだなんて考えていた。引退、もうあの場で歌を歌えなくなる。あたしがこの世界に入ってきたのは歌を歌いたかったからのはずなのに。「引退、かあ。」本当は歌いたかった。ステージに立ってお客さんが喜んであたしの名前を呼んで。一人で立つステージも、大勢で立つステージも、そこにあたしの居る場所は在る。引退なんかしたくないんだよ、と誰に言ってもいいのかもうずっとわからなくなっていた。少しだけ自分を思い出したような気がした。知っていたけどやっぱりあやちゃんはすごい。だからこそ、もっとわかってほしいことがある、けどそれはきっとわかってもらえない。「引退はやだな。」だからといってこのままぐだぐだできないのもわかっている。引き延ばすのにも限界があるだろうけど、事情が事情であたしはあいつと別れることすら難しい。あたしが寂しさに弱いことをあたしがよく知っていて、あやちゃんもよく知っているはずだ。誰にも許したことのない心の距離にいるのはあやちゃんだけだった。「引退は嫌だあやちゃん。」酔って自分が何言っているのかよくわからない。ずっと苦しかったんだよ、と付け足せたら楽になれるだろうけど言えない。楽になりたい。そう思ったらひょいと手が伸びてきてすべすべの手があたしの髪を梳いた。「たーん。」頭を撫でた。泣きたくなった。「たーん。」「なに。」泣きそうなのをごまかすために低い声で答える。情けない声が自分の耳に届く。「たんは自分がどうしたらいいか全部わかってるんでしょ。」わかっている。わかっているけど、あやちゃんに尋ねられたら素直に肯けなかった。しぶしぶのろのろ頭を縦に振った。「おいで。」あやちゃんは自分側の椅子の空いた場所をぽんぽんと叩いた。あたしはあやちゃんにだけは逆らえない。うつむいたまま移動したらぎゅうと抱きしめられた。「よーしよし。」あやすように頭を撫でられて腹が立ったり悔しかったりするけどその手は格別に心地よい。沈黙があたしに言いたいことを話せと語る。あやちゃんはそういう沈黙を作るのがうまくてあたしはいつも降参する。「寂しかったんだよ。もっと前みたいに構って。美貴に触って。」恥ずかしいことを言ってることは自覚しているのだけど止められはしない。あやちゃんはそうかそうかと頭をなでる。頬にキスする。昔みたいに。相変わらずその唇は柔らかい。
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非公開
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ヲタ
自己紹介:
白だったりクロだったり。310は名字から取ってます。
好きなものを好きなように、美しいものを美しく、美しいものを醜く、醜いものを醜く、醜いものを美しく。
平凡なことを切り取っていけたらいいな。

2011年4月くらいからスマにハマりだす。
2014年現在スマヲタ。スマ小説が多いです。
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