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ろまんすをかたってない

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+ + + + + + + + + +

「上がっていきなよ、あったかいもの出すよ。」
言い慣れた言葉はさとなに対しては少しいびつに出た。
いつだって誰相手にだって緊張はする。
他の誰か誘うより断られる確率は低い。
おそらくさとなはうちに上がっていくだろう。
明日晴れるより確実、なのに僕は、怖がっていた。
「コーヒー?紅茶もあるよ。」
図書委員の先輩を誘った時は沈黙を待てたのに、今は、さとなの口から白い息が出るのも待てない。
高い確率といってもどこかで心配なのだ。
―椿の家には上がりたくない―なんて言われる未来がいつも頭を横切る。
だってさとなはあんまりに僕のことを知ってしまっている。

「…ココア。」
さとな、言い終わると目尻が下がる。
マフラーから白がもこもこ、濃紺の空を背景にのぼる。
「ココア、あったかな。」
「コーヒー飲めないよ。」
なんでもない会話に安心して僕らはカンカンとアパートの階段をのぼった。
遠くで走る車の音をドアで遮断する。誰かといれば暗い部屋も嫌じゃない。
適当に座ってて、と言ったのにさとなはコートとマフラーを勝手にかけて台所についてきた。
「椿コーヒー飲めるの?」
「砂糖いーっぱいなら。」
「それなら俺も飲めるし。」
あいにく、ココアを飲む客人はうちにはあまりこないからストックがない。今度買ってこよう。
さとなはぼんやりと籠の中のコーヒーを眺めている。
何か言いたいのかもしれない。言われるかもしれない。
自分のせいでも後ろめたさみたいなものはあって、言葉を探す。
その前にさとながそこから離れた。
「ココアないんやけど、ホットチョコレートでもええ?」
「おー。作れるの?」
「牛乳にチョコ溶かすだけだけど。」
「すげ」
口を尖らせて驚いて見せた、その顔結構好きなん。

小さめの鍋に牛乳二杯、チョコレートは幸い1箱丸っと残っていた。
さとなが目を輝かせて僕の手元を覗き込んでいる。
甘いもの好きなんやな。今度ケーキ食べに誘ってみよう。
このまま食べたいとつまみ食いする手を制することはできなくてひとかけら口に吸い込まれていったから、さとなから甘い匂いがする。
匂いを言い訳にしてキスしてみたくなったけれどきっとそんな気分ではない。
その時間は電気を消してベッドに入ってから。そして今日はそんなことは起こらないんだ。
これを飲んだらさとなは帰ってしまう。
晩ご飯を用意して待ってる家族がいる。
「今日さとなんち晩ご飯何?」
「なんだっけ。」
出かけに言われたんだけどな、と、ぐるぐる渦巻く白と茶色を上の空で呟いてる。
「椿今日何食べるの?今からつくんの?」
「昨日ハンバーグ仕込んでおいたから今日はあと焼くだけ。」
冷蔵庫を指すと、あけてい?って一言。頷いて答える。
「すげー。こういうのって一人暮らし始めてから覚えたの?前から?」
「おかんが一通り教えてくれた。後はネットにレシピあるからそれ見て。」
「ふーん。」
「できたで。」
「やった!」お店のように綺麗に溶けなかったけれど味に失敗はないはず。
それぞれマグカップを持ってリビングに戻る。
けして広くはない僕の部屋を占拠するこたつに二人で潜り込む。
あ、電源入れておけばよかった。
「付けておけば良かった、ごめん。」
「椿これ作ってたから、俺が気付けばよかった。」
「ううん。」
「飲めばあったまるでしょ。」
ね、とさとなが笑う。

わー、うめー。
小さくはしゃぐの可愛いと思う。モテるやろな、さとな。
いつか可愛い彼女できるんやろな。
そう考えたら胸の奥に隙間風が吹く。
「あったまってきたー。」
さとながとろんと笑うの好きや。たけちゃんがにーって笑うのも好き。
前は二人同じように好きやったけど最近は変わってきたように思う。
さとなが笑うとなんか、胸のあたりがぎゅーってなる。
もちろんそんなことは言えんから黙っておく。
「こたつもあったまってきたぁ。」
体が温まると会話も弾む、ような気がする。
同じクラスだから授業中の面白かったこととか、誰と誰がどーとか、そんな感じで盛り上がった。
今日はたけちゃんがずうっと寝てたからさとなが後ろから消しカス投げて頭に積もらせて、笑ってたら怒られたり。
多分懲りずにまたやる。楽しくてしゃーないんだもん。
こうして話す時間も僕には余るくらい幸せで、だから、さとなのカップから減っていくチョコレートを盗み見ては悲しい気持ちになる。
この時間は限られているってことを証明されているみたい。
150mlのホットチョコレートは毎分30mlで飲まれていきます、とか、そんな計算いらん。
飲み終わってももう少しはいてくれるだろう。
小狡いぼくはさとなの優しさに甘えては溺れていきそうになるから多少厳しくされた方がいいのかもしれない。
というのも甘えてるんやろな。

そう思ううちにちゃあんとカップは空になってやっぱりそれより長くさとなは話し続けた。
こたつから出るの辛いと笑う。
あまり遅くなるといけないから僕から、せーのってかけ声をかけてこたつから出た。
何事も踏ん切りつけなきゃならない。線を引かなきゃいけない。
通りまで送るよ、というと、玄関でいいよっていう。
駄々をこねたら階段下で妥協された。
コート、もっとゆっくり着てもいいよ。
靴ゆっくり履いていいよ。
そんな言葉たちを飲み込んでさとなの準備を眺めていた。
細いマフラーを手慣れた風に巻いてさとなは、絶対外寒いと苦笑いする。
僕も嫌やなーと答えながらパーカーを羽織った。
玄関ドアを開けると冷たい風が吹き込んだ。
さっきまで慣れていたのに一度離れると厳しいものに思えた。
カンカンカン、と歩く音は来た時と変わらないはずなのになんだか聞きたくない。
それもすぐ途切れて、僕らはあっさりと分かれた。
じゃあ明日。うん。手を振る。丸くなった背中が遠ざかる。
さとなが曲がり角に消えるまで僕は動けなくて、消えてからも、振り向いて階段を登るのが悲しくて、ゆらゆら歩く。
ドアを閉めると外界から遮断されるみたい。
さとなとも遮断されるみたい。
この瞬間は、いつも嫌い。
背中をドアに押しつけてそのまましゃがみこむ。
白い天井を見上げて出てくるのは溜息だ。
お姉ちゃんが溜息つくと幸せ逃げてくぞーって教えてくれたのに
僕は思い出すだけで抑えることもしようとしなくて、こういう時に家族が遠く感じる。
家族にすぐ会えないって辛いことだって知った。
でも、明日にはたけちゃんに会える。さとな、にも。
そう自分を励ましてみても、なんか、効果は薄くてわがままばかりの自分が嫌になりそうだった。
冷たい玄関のドアが余計寂しく思わせてくれる。

ぼんやりそのままでいたらカンカンと階段を登る音が響く。
隣の人も帰ってきたんかな?
その足音は、僕の家の前で止まり、それから少し間があってからチャイムが鳴った。
誰だろう。情けない顔を擦って気を取り直した。
「はーい。」
控えめに開けた隙間から見える、見慣れたマフラー。
「え、あ、忘れ物?」
「違う。」
片手にはさっき見なかったコンビニの袋。
さむ、と言われて僕は慌ててさとなを迎い入れる。
「どした?」
「元気なかったから、さ、はい。」
手渡された袋の中にはケーキ2つ入り。
「あ、りがと。」
「ケーキなら紅茶がいいなー。」
さとなは僕の言葉をニコニコしながら待つ。
あがれよ、って、言えよと促されてる。だから僕はそれに倣う。
「あがりなよ。」
「ありがと。」
さとなの頬はほんのり赤くて外が寒いことを教えてくれた。言い訳をして抱きつきたくなった。
きっとさとなからは外のにおいがするんだろう。
嗅いだら愛しさがあふれてしまいそう、たぶん、間違いない。
だから僕は知らん顔をして、紅茶のにおいを嗅ぐ。

二人で食べるケーキはおいしかった。紅茶も美味く淹れられた。
でも今度は、ココアを買って待っていよう。
さとなどんな顔するかな。そうやって待つのであれば一人の時間も怖くない気がした。
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非公開
職業:
ヲタ
自己紹介:
白だったりクロだったり。310は名字から取ってます。
好きなものを好きなように、美しいものを美しく、美しいものを醜く、醜いものを醜く、醜いものを美しく。
平凡なことを切り取っていけたらいいな。

2011年4月くらいからスマにハマりだす。
2014年現在スマヲタ。スマ小説が多いです。
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